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20080805
真夏の夜の怖い話その3
- 2008-08-05 (Tue)
- 怖い話
「黄色い少年」・・・阿刀田高、選 『寄せられた体験』より
・・夏休みのある日、私は下の息子と、近くの遊園地、T園に行くことにした。下の息子は八歳。この夏、甲虫に夢中である。家にも十匹以上の甲虫類を飼っているのだが、T園にいる世界の珍しい甲虫を見るのがお目あてなのだ。私鉄S線でT園にはすぐに着いた。フリーパスを買って、開園と同時に昆虫館に向かった。たっぷりと午前中をそこで過ごした。見たり触ったり、息子は甲虫を満喫した。

涼しい昆虫館を出ると、べたべたした暑さがまとわりついてきた。コーラのジャンボサイズを買い、それを顔に押しあてながら歩いた。お昼を食べる前に一つ、何かのアトラクションに乗りたいと言う息子は、「ここってお化け屋敷あるの?」と聞いてきた。最近行ったディズニーランドのホーンテッドマンションをとても気に入っているのだ。私がT園に来るのは、上の息子が小さい時以来だったので、かれこれ十年ぶりだ。あの時は確かにあった。怖がる上の息子の肩を抱いて入った記憶が蘇った。記憶の中のお化け屋敷は、下の息子がホーンテッドマンションから得たお化け屋敷のイメージとはちょっと違うぞ、と思いながら案内図を見てみた。

「今もあるのかな。前に行ったのは十年も前だし、結構古かったから、もうないかもよ」でも、それらしいものがそのままあるようだった。それで、「見てから入るかどうか決めるよ」と言う息子と、お化け屋敷の方へ歩いて行った。真向かいのメリーゴーラウンドの華々しさとは対照的に、それはひっそりと存在していた。外から見ただけでは内部の様子はわからない。二人並んでカートに乗ることしかわからなかった。・・・お化け屋敷なのだから先が見えないのは当たり前なのだが・・・。

二人で見ていると、黄色い蛍光色のTシャツを着た男の子が、一人でぴょんとカートから降りてすたすたと歩いて来た。息子と同じ位の歳か、小柄なせいか幼いようにも見える。「あんな小さい子が一人で乗っているんだから怖くないかもよ」と私は言った。男の子はそのまま歩いて、再びお化け屋敷の入り口に向かい、すっとカートに乗った。「もう一回乗るんだね」まわりを見回したが保護者らしき人はいない。男の子が一人で物慣れた様子で乗ったのに違和感を持ったが、うちの子が幼いのかな、と思いながら、「入るの?どうするの?」と息子に聞いた。入りたいけど怖い息子は、「お昼を食べながら考えるよ」と言った。何事もさんざん迷ってから決めるのだ。そしてゆっくりとラーメンを食べた後、やっと入ることを決心した。私たちは、再びお化け屋敷の前に立った。息子は、お化け屋敷から出てくる客の一人一人の表情から、どのくらい怖かったのかを読み取ろうとしている。暑いのに手をつないでくるので汗でべたべたになった。そんなに怖いのなら、いっそ入らなければよいのにと思うのだが、彼は入りたいのだ。怖がることや迷うことを楽しんでいるようにもみえる。息子は、しばらく一人一人を食い入るように見ていたが、その中の一人に目をとめた瞬間、私の手を痛いほどぎゅっと握った。さっきのあの子が、またカートから降りて来たのだ。

小柄で、蛍光色の目立つTシャツを着ているあの子である。そしてその子は何の迷いもない様子で、私たちの二、三人後の方に並んだ。「ずっと乗ってたのかな」と息子がぼそっと言った。「よっぽど好きなんだよ」と私もぼそっと答えた。私は気になってちらちらとその子を見た。目立つ黄色いTシャツ。Tシャツはだぶだぶで、つき出た細い手足が一層にょきにょきして見える。首からフリーパス券を下げている。顔立ちは平凡で、これといった特徴もないことが、目立つ蛍光色とつり合っていなかった。さらに変なのは、この子が無表情であるということだった。怖いでもなく、おもしろいでもない。子どもというものは、くるくると表情が変わるはずなのだが、何の感情の動きも見られないのが、うちの子やまわりの子と決定的に違っていた。

しかも、なぜこの子はたった一人でお化け屋敷に入るのだろうか。考えるほど妙な感じがした。単純にもいろいろな子どもがいるんだという結論に達した頃、私たちの乗る順番が来た。入ったとたん、まっ暗で何も見えなくなった。かびくさい臭いがした。うす暗い光の中に浮かび上がったのは、十年前と変わらぬ世界。お寺、墓場、読経、井戸、さらし首・・・。もろに日本の昔ながらの、おどろおどろしいお化け屋敷だった。ホーンテッドマンションをイメージしていた息子は、初めての世界に面食らった。あまりの怖さに目をぎゅっと閉じたまま、私に抱きついている。時々「まだ?」「まだ?」と聞く。

終わって出て来た時は、二人ともくたくただった。息子はずっと体を固くしていて、私はずっとしがみつかれていた。「もう絶対入らない!」と息子が言ったので正直ほっとした。ところが、後ろから降りてきたあの少年は、また入り口へまわって列の後ろに並んだのだった。「えーっ!また並んでるよ」私たちはあきれて顔を見合わせた。ひょっとしてあの子は、朝からずっと乗り降りを繰り返しているのではないだろうか。朝からずっと無表情のまま、機械じかけの人形のように。「変な子!」肩をすくめながら私たちはそこを離れて別のアトラクションに行った。

ミラーハウスやらゴーカート、アスレチックなど次々に楽しんだ。少年のことはいつしか忘れてしまっていた。イチョウ並木にライトアップの光が点り、閉園を告げるアナウンスが流れ始めたので、私たちは出口に向かうためにお化け屋敷の方へ歩いて行った。お化け屋敷を目にするまで、私たちはあの少年のことはすっかり忘れていた。お化け屋敷が見えた時、嫌な気分になった。

蛍光イエローの姿をまた見てしまうような、まさかもういくら何でもいないだろう、いてほしくないというような混じり合った嫌な気分。息子の手がまた私の手にしっかりとつかまってきた。お化け屋敷のまわりには誰もいなかった。ほっとため息をついた時、黄色い少年が、平然とカートから降りてきた。そしてまた、入り口に歩いて行った。

どんな展開になるのだろうと、私たちは目を見開いた。立ち入り禁止のチェーンをはりながら、「もうおしまいです」と係員に事務的に言われたその少年は、そのままそこに立っていた。背中を向けているので表情が見えない。でも、きっと何の表情もないだろうな、と思った。ところが、ちょうどそう思った時、なぜかその少年はちょっと首を曲げてこちらをちらりと見たような気がした。そしてなぜか、にやりと笑った気がした。息子の手がすうっと冷たくなった。「怖いよ。あの子」息子は言った。つい目で追ってしまう蛍光の黄色が、出口に向かってだっと走り出した。うす暗がりの中にいつまでも溶けこむことなく小さくなって行き、そしてようやく消えて行った。 (体験者 練馬 泉/東京都44歳)
・・夏休みのある日、私は下の息子と、近くの遊園地、T園に行くことにした。下の息子は八歳。この夏、甲虫に夢中である。家にも十匹以上の甲虫類を飼っているのだが、T園にいる世界の珍しい甲虫を見るのがお目あてなのだ。私鉄S線でT園にはすぐに着いた。フリーパスを買って、開園と同時に昆虫館に向かった。たっぷりと午前中をそこで過ごした。見たり触ったり、息子は甲虫を満喫した。

涼しい昆虫館を出ると、べたべたした暑さがまとわりついてきた。コーラのジャンボサイズを買い、それを顔に押しあてながら歩いた。お昼を食べる前に一つ、何かのアトラクションに乗りたいと言う息子は、「ここってお化け屋敷あるの?」と聞いてきた。最近行ったディズニーランドのホーンテッドマンションをとても気に入っているのだ。私がT園に来るのは、上の息子が小さい時以来だったので、かれこれ十年ぶりだ。あの時は確かにあった。怖がる上の息子の肩を抱いて入った記憶が蘇った。記憶の中のお化け屋敷は、下の息子がホーンテッドマンションから得たお化け屋敷のイメージとはちょっと違うぞ、と思いながら案内図を見てみた。

「今もあるのかな。前に行ったのは十年も前だし、結構古かったから、もうないかもよ」でも、それらしいものがそのままあるようだった。それで、「見てから入るかどうか決めるよ」と言う息子と、お化け屋敷の方へ歩いて行った。真向かいのメリーゴーラウンドの華々しさとは対照的に、それはひっそりと存在していた。外から見ただけでは内部の様子はわからない。二人並んでカートに乗ることしかわからなかった。・・・お化け屋敷なのだから先が見えないのは当たり前なのだが・・・。

二人で見ていると、黄色い蛍光色のTシャツを着た男の子が、一人でぴょんとカートから降りてすたすたと歩いて来た。息子と同じ位の歳か、小柄なせいか幼いようにも見える。「あんな小さい子が一人で乗っているんだから怖くないかもよ」と私は言った。男の子はそのまま歩いて、再びお化け屋敷の入り口に向かい、すっとカートに乗った。「もう一回乗るんだね」まわりを見回したが保護者らしき人はいない。男の子が一人で物慣れた様子で乗ったのに違和感を持ったが、うちの子が幼いのかな、と思いながら、「入るの?どうするの?」と息子に聞いた。入りたいけど怖い息子は、「お昼を食べながら考えるよ」と言った。何事もさんざん迷ってから決めるのだ。そしてゆっくりとラーメンを食べた後、やっと入ることを決心した。私たちは、再びお化け屋敷の前に立った。息子は、お化け屋敷から出てくる客の一人一人の表情から、どのくらい怖かったのかを読み取ろうとしている。暑いのに手をつないでくるので汗でべたべたになった。そんなに怖いのなら、いっそ入らなければよいのにと思うのだが、彼は入りたいのだ。怖がることや迷うことを楽しんでいるようにもみえる。息子は、しばらく一人一人を食い入るように見ていたが、その中の一人に目をとめた瞬間、私の手を痛いほどぎゅっと握った。さっきのあの子が、またカートから降りて来たのだ。

小柄で、蛍光色の目立つTシャツを着ているあの子である。そしてその子は何の迷いもない様子で、私たちの二、三人後の方に並んだ。「ずっと乗ってたのかな」と息子がぼそっと言った。「よっぽど好きなんだよ」と私もぼそっと答えた。私は気になってちらちらとその子を見た。目立つ黄色いTシャツ。Tシャツはだぶだぶで、つき出た細い手足が一層にょきにょきして見える。首からフリーパス券を下げている。顔立ちは平凡で、これといった特徴もないことが、目立つ蛍光色とつり合っていなかった。さらに変なのは、この子が無表情であるということだった。怖いでもなく、おもしろいでもない。子どもというものは、くるくると表情が変わるはずなのだが、何の感情の動きも見られないのが、うちの子やまわりの子と決定的に違っていた。

しかも、なぜこの子はたった一人でお化け屋敷に入るのだろうか。考えるほど妙な感じがした。単純にもいろいろな子どもがいるんだという結論に達した頃、私たちの乗る順番が来た。入ったとたん、まっ暗で何も見えなくなった。かびくさい臭いがした。うす暗い光の中に浮かび上がったのは、十年前と変わらぬ世界。お寺、墓場、読経、井戸、さらし首・・・。もろに日本の昔ながらの、おどろおどろしいお化け屋敷だった。ホーンテッドマンションをイメージしていた息子は、初めての世界に面食らった。あまりの怖さに目をぎゅっと閉じたまま、私に抱きついている。時々「まだ?」「まだ?」と聞く。

終わって出て来た時は、二人ともくたくただった。息子はずっと体を固くしていて、私はずっとしがみつかれていた。「もう絶対入らない!」と息子が言ったので正直ほっとした。ところが、後ろから降りてきたあの少年は、また入り口へまわって列の後ろに並んだのだった。「えーっ!また並んでるよ」私たちはあきれて顔を見合わせた。ひょっとしてあの子は、朝からずっと乗り降りを繰り返しているのではないだろうか。朝からずっと無表情のまま、機械じかけの人形のように。「変な子!」肩をすくめながら私たちはそこを離れて別のアトラクションに行った。

ミラーハウスやらゴーカート、アスレチックなど次々に楽しんだ。少年のことはいつしか忘れてしまっていた。イチョウ並木にライトアップの光が点り、閉園を告げるアナウンスが流れ始めたので、私たちは出口に向かうためにお化け屋敷の方へ歩いて行った。お化け屋敷を目にするまで、私たちはあの少年のことはすっかり忘れていた。お化け屋敷が見えた時、嫌な気分になった。

蛍光イエローの姿をまた見てしまうような、まさかもういくら何でもいないだろう、いてほしくないというような混じり合った嫌な気分。息子の手がまた私の手にしっかりとつかまってきた。お化け屋敷のまわりには誰もいなかった。ほっとため息をついた時、黄色い少年が、平然とカートから降りてきた。そしてまた、入り口に歩いて行った。

どんな展開になるのだろうと、私たちは目を見開いた。立ち入り禁止のチェーンをはりながら、「もうおしまいです」と係員に事務的に言われたその少年は、そのままそこに立っていた。背中を向けているので表情が見えない。でも、きっと何の表情もないだろうな、と思った。ところが、ちょうどそう思った時、なぜかその少年はちょっと首を曲げてこちらをちらりと見たような気がした。そしてなぜか、にやりと笑った気がした。息子の手がすうっと冷たくなった。「怖いよ。あの子」息子は言った。つい目で追ってしまう蛍光の黄色が、出口に向かってだっと走り出した。うす暗がりの中にいつまでも溶けこむことなく小さくなって行き、そしてようやく消えて行った。 (体験者 練馬 泉/東京都44歳)
真夏の夜の怖い話その2
- 2008-08-05 (Tue)
- 怖い話
「新耳袋第一夜10章87話より」
・・愛知県にサーファーたちのメッカといわれる岬がある。サーファーたちはたいてい夜中にやって来て、早朝になると浜に出てゆくそうだ。彼もその日の夜中にやって来て、車を堤防沿いに停め、仮眠をとった。潮の匂いと高い波の音が心地良い。たまに、人の歩く気配などもするが、それは自分と同じサーファー仲間たちのものであると思っていた。

その夜はなかなか眠れず、寝返りばかり打っていると、ひた、ひた、ひた、ひたと、人が裸足で歩いている音がする。なにげなくその足音の主を見て、ギョッとわが目を疑った。そこを歩いていたのは腐乱した人だったのだ。足音は普通の人間の足音に聞こえる。だが、その姿は・・・・・・、彼は、それがぐちゃぐちゃに腐乱した人のような形をしたものであったと言って口を閉ざした。

それは、別になにをするということもなく、通り過ぎていくだけであった。その日はサーフィンどころではなく、気分が悪くなってすぐに帰った。実際、そこにサーファーの幽霊が出るという噂は以前からあった。波に呑み込まれ、テトラポットの底にひっかかったまま、いまだに浮き上がってこない仲間たち、そのなかの誰かが浮かばれないまま、幽霊になって歩き回ることがあるという。

後日、その岬に出かけ、何人かのサーファーに噂のことを聞くと、見たという者が何人かいたが、決まって見たという以上の話になると口をつぐんだという。
・・愛知県にサーファーたちのメッカといわれる岬がある。サーファーたちはたいてい夜中にやって来て、早朝になると浜に出てゆくそうだ。彼もその日の夜中にやって来て、車を堤防沿いに停め、仮眠をとった。潮の匂いと高い波の音が心地良い。たまに、人の歩く気配などもするが、それは自分と同じサーファー仲間たちのものであると思っていた。

その夜はなかなか眠れず、寝返りばかり打っていると、ひた、ひた、ひた、ひたと、人が裸足で歩いている音がする。なにげなくその足音の主を見て、ギョッとわが目を疑った。そこを歩いていたのは腐乱した人だったのだ。足音は普通の人間の足音に聞こえる。だが、その姿は・・・・・・、彼は、それがぐちゃぐちゃに腐乱した人のような形をしたものであったと言って口を閉ざした。

それは、別になにをするということもなく、通り過ぎていくだけであった。その日はサーフィンどころではなく、気分が悪くなってすぐに帰った。実際、そこにサーファーの幽霊が出るという噂は以前からあった。波に呑み込まれ、テトラポットの底にひっかかったまま、いまだに浮き上がってこない仲間たち、そのなかの誰かが浮かばれないまま、幽霊になって歩き回ることがあるという。

後日、その岬に出かけ、何人かのサーファーに噂のことを聞くと、見たという者が何人かいたが、決まって見たという以上の話になると口をつぐんだという。
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